結婚披露宴で父が私に見せた涙の思い出

私の父は、私の幼い頃から企業戦士で、夕食を共にすることは滅多にありませんでした。
その上、寡黙で口下手な父親ですので、父と遊んだ思い出がほとんどありませんでした。
小さい頃は、周りのお友達が、お父さんと一緒に動物園や遊園地に行った話などをされて、とても悲しい気持ちになったものです。
その思いも小学校の高学年くらいには薄れてきました。
それと同時に、父親がさらに遠い存在になったようでした。
そんな寡黙で口下手な父が、私の結婚披露宴にて見せた涙のエピソードをご紹介したいと思います。
母曰く父は、出会った頃から無口な人だったと言います。
薬剤師の父は、薬品会社に勤めており、日々薬品の研究をしておりました。
平日の帰宅時間も遅く、毎日夜中に帰宅していたそうです。
週末になると、どこかに連れて行ってもらえるわけでもなく、父は書斎で読書をしておりました。
そんな父が遠い存在であったし、幼い頃は寂しい気持ちによくなっておりました。
そんな私達兄弟を母はとてもやさしくしてくれました。
水族館や遊園地などの遠出も全て母と一緒に行きました。
学校の友人は皆、お父さんと一緒にスポーツをしたり、外食をしたり楽しい話を聞くのに我が家では、そのような行事は全くありません。
もちろん、父の事は好きでしたし、尊敬をしておりましたが、どこか近寄り難くて、たまに二人っきりになると、少しぎくしゃくして何を話したらよいか分からないほどのよそよそしい関係でした。
そんな私も成人して、お嫁に行く時期になったのです。
私の彼がある日、我が家に挨拶をしたいと言い出したのです。
私は、彼との結婚に何も心配はなかったのですが、実父を紹介することをためらってしまいました。
何せ口下手な父ですから、その場がしらけないように、頑張らなくてはならないのです。
私は彼に、日本酒を手土産で持って来るように、指示をしました。
なぜなら父は日本酒が大好きなのです。
彼が実家に来る当日、父はいつも通り書斎で本を読んでおりました。
そして緊張の中、彼が到着し、私の両親と彼と私の4人で話をしました。
私と母はその場が盛り下がらないように、一生懸命頑張っていました。
彼もそんな空気を察してか、父に対して明るく接していました。
日本酒を予定通り、持ってきてくれて、早速父に渡しました。
しかし、父の反応はとても薄く、私の努力も実りませんでした。
しかし、がっかりとしている暇はありません。
私達は、結婚披露宴に向けて準備をしていきました。
そして、プランナーからの提案で、花嫁である私が両親に向けて手紙を読むことをお勧めされました。
私は正直迷っていました。
なぜなら母との思い出はあっても父との思い出は皆無に等しいからです。
しかし、一生にそうないチャンスですので、私は両親への手紙を読むことにしました。
そして、結婚披露宴の当日、披露宴も終わりにさしかかったところで、私は両親に手紙を読みました。
原稿は2枚に渡りました。
私は、これまで生きてきた中で一番感情を込めて、文章を読みました。
そして、顔を見上げると、父の頬にキラリと光るものがあったのです。
それは涙でした。
私は産まれて初めて父の涙を見ました。
こんな父親でも、いつでも私の事を思ってくれていたのです。
この父の涙は、私にとって一生忘れられない思い出となりました。

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